1.法定後見制度とは
法定後見制度には、「後見」「保佐」「補助」の3種類あり、判断能力の程度などに応じて制度を選べるようになっています。
家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)が、判断能力の不十分な本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為をしたり、本人が自分で法律行為をするときに同意を与えたり、本人が同意を得ないでした不利益な法律行為をあとから取り消したりすることによって、本人を保護・支援します。
法定後見制度の対象
□本人が財産管理が難しいため、代わりに財産管理を行いたい方 |
2.成年後見制度開始の申立の動機とは
申立の動機は、ケースバイケースですが、多い順に
1.財産管理・処分
財産管理には、預金通帳・有価証券等の保全、預貯金管理・払戻し等が多いですね。
その他、不動産その他重要財産の処分・売買、賃貸借契約の締結・解除、担保権の設定、相続の承認・放棄、遺産分割、贈与・遺贈の受託・拒否等です。
2.身上監護
これは、医療や施設への入退所に関する事項などの契約締結、履行の監視、費用の支払、契約の解除などの行為、介護契約・医療契約の締結等です。
3.遺産分割協議
相続人である本人が判断能力が不十分な場合、後見人等が本人に代わり、遺産分割協議に加わります。
4.介護保険契約
5.訴訟手続
以上です。1の財産管理が圧倒的に多いのが現状です。
3.法定後見制度の取り消しと変更
本人(被後見人・被保佐人・被補助人)の判断能力が回復し、後見・保佐・補助開始の原因が止んだときは、後見・保佐・補助開始の審判の取り消しを請求することになります。
実際のところ、このようなケースはさほど多くはありません。
また、本人が死亡した場合もただちに取り消しとなります。
保佐・補助の審判を受けている本人の状況が後見に移行する時は、保佐・補助は取り消しとなります。
変更に関しては、保佐人と補助人の代理権・同意権・取消権について、新たに権限を追加する審判や一部または全部を取り消す審判を請求することができます。
4.成年後見人等の選任
現在の成年後見制度においては、家庭裁判所が個々の事案について、最適な者を成年後見人・保佐人・補助人として選任することとされています。
親族がなるのが本当はよろしいのでしょうが、親族が適さない場合やいない場合等、専門家が就任する場合もあります。成年後見人・保佐人・補助人として多い順に内訳は、親族に関しては、子、兄弟姉妹、その他親族、親、配偶者となっています。
配偶者が少ないのは、やはり年齢も近く、財産管理などができないためでしょうね。
専門家に関しては、司法書士、弁護士、社会福祉士となっています。専門家の割合は、まだ少ないですが、徐々に増加の傾向にあります。
複数の成年後見人等が選任された場合
旧法においては、後見人等は一人でなければいけませんでしたが、新制度においては、複数の後見人・保佐人・補助人を置くことが可能となっています。
もちろん、ひとりだけでも構わないのですが、多様なニーズに応えるためにも複数の後見人等を選任するケースもあります。
例えば、財産管理の実務は、法律の専門家(弁護士・司法書士・行政書士)、身上監護の実務は、福祉の専門家(社会福祉士)、日常生活に関する事務は、同居の親族というケース。
親族と専門家の組み合わせで、それぞれの得意な分野を担当するわけです。ただし、注意すべき点は、いずれの後見人等でも単独で代理権・同意権・取消権を行使することができる点です。
そのため、家庭裁判所で審判により、複数の後見人等が共同で代理権・同意権・取消権を行使すべき旨を定めることができます。この定めがあると全員一致した場合のみ代理権・同意権・取消権を行使することができるということになります。
5.成年後見人等の事務
成年後見人等は、本人の生活・医療・介護・福祉など、本人の身のまわりの事柄にも目を配りながら本人を保護・支援します。しかし、成年後見人等の職務は本人の財産管理や身上監護による契約などの法律行為に関するものに限られており、食事の世話や実際の介護などは、一般に成年後見人等の職務ではありません。
その職務を行うにあたっては、本人の意思を尊重し(意思尊重義務)、本人の心身の状況及び生活の状況に配慮しなければならない(身上配慮義務)と定められています。
また、成年後見人等はその事務について家庭裁判所に報告するなどして、家庭裁判所の監督を受けることになります。
成年後見人等が本人の居住用不動産を処分する場合
成年後見人等は本人(被後見人)の財産に関する包括的な代理権を持っています。
したがって、本人の居住用不動産の処分も代理権で行うことができます。
ちなみに保佐人・補助人に関しては、本人(被保佐人・被補助人)の居住用不動産の処分を行うためには、家庭裁判所の審判を受けていなければ、代理することはできません。
居住用不動産を処分するということは、住み慣れた家を売却し、新たな場所で暮らしていくことです。住む環境が変わることで、本人の心身に大きな影響を与えることになります。
そのようなことから、本人の居住用不動産の処分にあたっては、身上配慮義務に基づき、慎重な判断が必要なため、家庭裁判所の許可が必要となります。
なお、家庭裁判所の許可を得ないで本人の居住用不動産を処分した場合は、無効です。
6.成年後見監督人等の選任及び事務
法定後見制度では、家庭裁判所が職権で必要と認めたときは、成年後見人等の職務を監督する成年後見監督人・保佐監督人・補助監督人を選任できます。(任意)
ただし、保佐監督人・補助監督人に関しては、保佐人・補助人に付与された権限の乱用防止を目的としています。
なお、成年後見監督人は個人、法人いずれも可能です。 成年後見人には幅広い権限が付与されており、成年後見監督人等はいつでも成年後見人等の事務に関する報告等を求め、又はその事務若しくは本人の財産の状況を調査することが可能です。
また、本人の財産の管理、その他後見等の事務について必要な処分を命ずることを家庭裁判所に請求することができます。 さらに、監督の過程で不正行為等を知ったときは、成年後見人等の解任を家庭裁判所に請求することができます。
今、成年後見監督人等が選任されるケースが増えています。
成年後見監督人等に就任する人とは
成年後見監督人・保佐監督人・補助監督人に就任する人とは、どのような人でしょうか。
家庭裁判所で事案ごとに適任者を選任しますが、本人(成年後見人等)の直系血族と兄弟姉妹は一律に排除されます。身内では、やはり監督機能が働かないとの判断ですね。
そこで、弁護士・司法書士等の法律専門家や社会福祉士等の福祉の専門家が就任するケースが多いです。また、法人が就任することも可能です。社会福祉協議会や公益法人、社会福祉法人、営利法人も就任は可能です。実際のところは、やはり、弁護士が多いですね。
7.法定後見の登記
法定後見の登記は、嘱託または申請により、後見登記等ファイルに記録されることになっています。 登記事項は、法定後見の種別、本人の氏名等、法定後見人の氏名等、保佐人及び補助人の代理権の範囲・同意を得ることを要する行為、法定後見監督人が選任されたときは、その氏名等です。
上記は、家庭裁判所の裁判所書記官が登記を行います。上記の変更もしかりです。
ただし、本人の住所が変更となったり、婚姻等で氏が変わったときは、変更の登記を行います。
また、本人が亡くなったときは、終了の登記が行われます。