1.税法上の特例の活用
(1)相続時精算課税制度
相続税と贈与税を一体化した制度。生前贈与で60歳以上の人が資産を動かして経済を活性化させるのが狙い。
概 要 | 生前贈与を受けた者で一定の要件を満たす者については、選択により、贈与時に贈与財産に対する贈与税を支払い、その後の相続時にその贈与財産と相続財産を合計した価額を基に計算した相続税額から、既に支払った贈与税を控除する。 |
適用対象者 | 贈与者は、60歳以上の親(父母)と祖父母、受贈者は20歳以上の子である推定相続人である子と孫であること。 |
適用手続 | 本制度の選択を行おうとする受贈者(子)は、最初に贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに税務署長に対してその旨の届出を贈与税の申告書に添付することにより行う。この選択は、受贈者である兄弟姉妹が別々に、贈与者である父、母ごとに選択できる。 |
適用対象となる贈与 財産等 | 贈与財産の種類、金額、贈与回数に制限なし。 |
非課税枠 | 2,500万円 |
贈与額の計算・税額 | 当該贈与税の額は、上記の贈与財産の価格の合計額から、複数年にわたり利用できる非課税枠2,500万円を控除した後の金額に、一律20%の税率を乗じて算出する。 |
※ポイント
1)従来からの贈与(単純贈与)と相続時精算課税制度を選択する。一旦、相続時精算課税制度を選択すると、取消はできません。
ただし、子である受贈者ごとに選択することができます。
(例) 長男:相続時精算課税制度 次男:単純贈与。
2)相続時精算課税制度を選択すると、2,500万円までは贈与税が課税されません。2,500万円を超えた部分は、一律20%の税率を乗じて算出します。単純贈与の税率とは別枠の扱いです。ただし、単純贈与の基礎控除110万円は使えなくなります。
3)相続時精算課税制度で贈与された財産は、親の死亡時に相続財産と合算され、相続税が計算されます。財産の変動がなければ、基本的に相続税は変わりません。(相続税対策にはなりません。)
◆計算例
70歳の親が40歳の長男に対して贈与する場合
平成28年に2,000万円贈与。この時点では贈与税なし。
(2,000万円-2,500万円=残り500万円)
平成29年に2,000万円贈与。
(2,000万円-残り500万円=1,500万円×20%の税率で、300万円の贈与税がかかります。)
平成30年父親死亡。300万円還付される(相続税がかからない場合)
相続税がかかる場合は300万円は相続税の前払いとなります。
※必要書類
□贈与税の申告書(第一表及び第二表)
□相続時精算課税選択届出書
□確認書(財産を贈与した旨の書面)
□受贈者の戸籍謄本(抄本)
□受贈者の戸籍の附票の写し
□贈与者の住民票の写し
(2)直系尊属から住宅取得資金に係る贈与税の軽減措置
今回、贈与税の特例として、平成21年1月1日から令和3年12月31日までの間で、住宅を取得するための資金の贈与を親子間、祖父母と孫との間で贈与を受けた場合には、住宅所得等資金のうち一定金額(最大で1,200万円)について贈与税の非課税財産とするという特例です。
つまり、父から1,200万円、母から1,200万円、合計で最大で2,400万円の住宅取得等資金の贈与を受けたとしても、非課税となります。
また、夫婦で自宅を共有する場合には、夫の両親から2,400万円、妻の両親から2,400万円で、合計で最大4,800万円まで非課税となります。
住宅取得資金が非課税の贈与資産となったため、この特例と住宅取得資金に係る相続時精算課税の特例を同時適用を受けることが可能となりました。
住宅を取得するための資金の贈与ですから、住宅ローンの返済資金の贈与や土地の取得(建物と同時の取得は可)の資金に対する贈与には適用はありません。
また、取得する建物も床面積が50㎡以上であること、木造戸建等は築20年以内、マンションなどの鉄筋造の建物は築25年以内である必要があります。
さらに、資金の贈与を受けた年の翌年3月15日までに建物の引き渡しを受け、遅くとも翌年12月31日までに居住しなければいけません。
結果として贈与税がかからない場合でも、特例の適用を受ける場合には、申告が必要となりますのでご注意ください。
適用時期 | 令和3年12月31日までの間に行われる贈与。 |
贈与者 | 受贈者の直系尊属(父母、祖父母)であること。 |
受贈者 | 贈与を受けた年の1月1日において20歳以上であること。贈与を受けた時に日本国内に住所を有すること。 あるいは、贈与を受けた時に日本国内に住所を有しないものの日本国籍を有し、かつ、受贈者または贈与者がその贈与前5年以内に日本に住所を有したことがあること。贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であること。 |
対象財産 | その家屋の新築もしくは取得または増改築等とともにするその家屋の敷地の用に供される土地や借地権などの取得。 住宅用家族の新築・取得に先行してするそのの敷地の用に供される土地や借地権などの取得。 ※受贈者の親族等との請負契約に基づく新築・増改築や、当該親族等からの取得については、非課税規定の適用はない。 |
非課税枠 | 下記の表参照 |
相続発生時の相続財産への加算 | 非課税のため、相続財産には加算されない。 |
要 件 | 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、その居住用住宅を居住の用に供したこと(3月15日以後に居住の用に供することが確実であり、実際に翌年12月31日までに居住の用に供された場合もOK)。 |
他の非課税枠 との併用 |
非課税枠は、基礎控除110万円に1,000万円を上乗せして、1,110万円まで。住宅取得資金に係る相続時精算課税の特例を受ける場合は、特別控除2,500万円に1,000万円を上乗せして、3,500万円まで(受贈者が親の場合のみ)。 |
※非課税限度額
□贈与税の申告書(第一表及び第二表)
□相続時精算課税選択届出書
□確認書(財産を贈与した旨の書面)
□受贈者の戸籍謄本(抄本)
□受贈者の戸籍の附票の写し
□贈与者の住民票の写し
□新築した住宅用家屋の登記簿謄本
□耐震基準適合証明書または住宅性能評価書の写し(すでに居住している場合)
□住宅用家屋の新築工事請負契約書の写し(3月15日までに工事が未完成の場合)
□受贈者の住民票の写し
(3)居住用不動産の配偶者控除
結婚して20年以上経過した夫婦間で居住用不動産の贈与があった場合には、贈与税の課税価格から最高2,000万円を控除できる「贈与税の配偶者控除」という特例。
この特例を使うと、基礎控除額110万円とあわせて、合計2,110万円までの贈与は贈与税がかかりません。
ただし、この控除を受けるためには、「同一の配偶者からの贈与について、この控除を受けていないこと」、「贈与を受けた配偶者はその居住用不動産に引き続き居住する見込であること」などの条件が付せられています。
◆計算例
3,000万円の居住用不動産を贈与された場合
課税価格
3,000万円-2,110万円(控除額+基礎控除額)=890万円
贈与税額
890万円×40%-125万円=231万円 ※税率
※必要書類
□申告書
□受贈者の戸籍謄本(抄本)
□受贈者の戸籍の附票の写し
□居住用不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)
□受贈者の住民票の写し
(4)教育資金の一括贈与
2013年の税制改正で新たな制度として、教育資金の一括贈与が設けられました。
概 要 | 子や孫に一度にまとまった教育資金を贈与した場合にかかる贈与税が非課税となる。 |
贈与者 | 贈与を受ける者の直系尊属 |
受贈者 | 教育資金管理契約の締結日において30歳未満 |
贈与の方法 | 1)直系尊属から信託の受益権を付与 2)直系尊属から書面で贈与された金銭を銀行等に預け入れ 3)直系尊属から書面で贈与された金銭等で有価証券を購入 上記のいずれかの方法 |
受贈者の手続 | 「教育資金非課税申告書」を取扱金融機関に提出する。 |
非課税枠 | 「教育資金非課税申告書」に記載された金額 1,500万円(受贈者1人あたり) |
教育資金として認められるケース | 1)学校などに支払われる入学金や授業料などの金銭 (非課税限度額1,500万円) 2)学校以外に支払われる金銭で一定のもの (非課税限度額500万円) |
節税効果 | あり |
再適用 | 摘要期間内で、非課税適用額の範囲内であれば、複数回の贈与が可能。 |
注意点 | 孫が30歳になるまでに全額を使い切らなかった場合、残額に対して贈与があったものとみなされ、贈与税が課税される。 |
(適用期限:平成31年3月31日まで)
(5)結婚・子育て資金の一括贈与
2015年の税制改正で新たな制度として、結婚・子育て資金の一括贈与が設けられました。
概 要 | 若い世代の生活援助のために結婚資金や子育てを贈与した場合にかかる贈与税が非課税となる。 |
贈与者 | 贈与を受ける者の直系尊属 |
受贈者 | 18歳から50歳未満までの個人 |
贈与の方法 | 受贈者が、銀行に受贈者名義の専用口座を設けて、その口座に一括で贈与者が贈与財産を入金する。 |
受贈者の手続 | 金融機関に結婚・子育て資金非課税申告書の提出する。結婚や子育てのために使用したことがわかる領収書を取扱金融機関に提出する。 |
非課税枠 | 1,000万円(受贈者1人あたり) 結婚に関する費用は最大で300万円まで |
対象となる用途 | 1)婚礼に要する費用 2)住居費用及び引っ越し費用のうち一定のもの 3)妊娠に要する費用 4)出産に要する費用 5)子の医療費 6)子の保育料のうち一定のもの |
節税効果 | あり |
再適用 | 摘要期間内で、非課税適用額の範囲内であれば、追加の入金の贈与が可能。 |
注意点 | 受贈者がが50歳に達する日に口座は終了。全額を使い切らなかった場合、残額に対して贈与があったものとみなされ、贈与税が課税される。 |
(適用期限:平成27年4月1日から令和7年3月31日まで)
単純贈与と生前贈与のメリット・デメリット表
贈与者 | 制限なし | 満60歳以上の親(住宅取得資金については年齢制限なし) |
受益者 | 制限なし | 満20歳以上の子である推定相続人 |
基礎控除 | 毎年110万円 | な し |
特別控除 | な し | 贈与者ごと2,500万円 |
税 率 | 累進課税(最高50%) | 特別控除を超える金額について一律20% |
税 金 | (金額-110万円)×累進課税= 税額 | (金額-2,500万円)×20%=税額 |
相続時の合算 | 原則なし。ただし、相続開始前3年内贈与については合算あり。 | あ り |
適 用 | 生前贈与を選択しなければ、適用。 | 一度選択したら、選択後すべての贈与に適用。撤回不可。 |
相続税の
節税効果
|
あり。贈与税の基礎控除年間10万円までは、贈与税がかからない。将来の相続時に相続税の計算対象外となる。 | なし。2,500万円の特別控除があるが、贈与者の相続時に、相続税の計算に合算されて相続税がかかる。 |
大型贈与 | 多年数にわたり、多人数であれば可能。 | 一度に大型贈与がしやすい。 |
その他 | 単純贈与をしてから生前贈与を選択すれば、両者のメリットを享受できる。 | 生前に財産を子に渡せる。贈与者が計画的に対策が打て、紛争防止に役立つ。生き金として使える。 |
生前贈与の使い方早見表
住宅資金 | ローンの肩代わり 資金援助 |
子供の生活が楽になる。 |
賃貸住宅の贈与 | 収益力の移転 | 期間利益が大きい。 親から子への利益移転により所得税の軽減。 子の相続税支払い原資の確保。 |
家督相続 | 紛争防止 | 後継者を決め、その他の相続人へ一定金額を贈与し、遺留分を放棄させて、遺言書で決定させる。 |
事業承継 | 後継者の決定 | 株式を後継者に集中させる。 株式の移転。 他の相続人に一定金額を贈与し、遺留分を放棄させる。 |
介護資金 | 介護する人に | 介護してくれた人に感謝する。 |
相続人の中で弱者へ | 生活補助 | 早期に財産移転。 |
特殊事情のある相続人 | 生活補助 紛争防止 |
先妻の子、非嫡出子、再婚等。相続後ではもめるので防止策として。 |
ペイオフ対策 | 預金の分散 | 1人1,000万円を堂々と分散させる。 |