1.遺言の方式
自筆証書遺言
遺言者自らが書いて作成する遺言です。
※書き方は、遺言書の内容と書き方参照
遺言書が見つかったら
遺言者の死後、家庭裁判所に検認の請求を行います。
検認とは、遺言書の偽造・変造を防ぐ為の裁判所による一種の証拠保全手続です。内容の真正まで証明するものではありません。
封印がある遺言書の場合は、相続人(代理人)全員の立会いのもとに開封されます。封印がない場合には立会いは必要ありません。
検認手続時必要書類
□検認申立書
□遺言書
□申立人の戸籍謄本
□遺言者の戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本
□相続人全員・受遺者の戸籍謄本・住民票
□遺言者の筆跡がわかる書類(手紙など)
※当事務所は、自筆証書遺言作成を希望される方のために、自筆証書遺言作成サポートを行っています。文面をチェックいたします。全国対応です。
メールでの添削はE-mail:takei@shonan.104.netへどうぞ! 料金表参照。
公正証書遺言
公証人によって作成される遺言です。
公証人とは法務大臣に任命された特殊な公務員です。判事や検事の出身の法律事務のベテランです。
公正証書遺言を行う際は、証人が2人以上立ち会わなければなりません。証人は、未成年者・被後見人・被保佐人・被補助人、推定相続人とその配偶者、受遺者とその配偶者、直系血族、公証人の配偶者・四親等内の親族、書記、雇人はなれませんので注意してください。
実務では、行政書士が証人となっております。
公証人が遺言の趣旨を口述し、遺言者と証人に読み聞かせ、遺言者と証人が自書押印します。
費用はかかりますが、検認手続は不要ですし、破棄・隠匿・偽造・変造される心配もないことから、一番安全で確実な遺言です。公正証書遺言をお勧めいたします。
※公証役場の費用に関することは公正証書遺言作成手続の流れと費用をご覧ください。
必要書類
□遺言者の実印(証書作成当日持参)、印鑑登録証明書
□遺言者と相続人の関係がわかる戸籍謄本
□受遺者の住民票(相続人以外の者に遺贈する場合)
□不動産の登記簿謄本・固定資産評価証明書(不動産がある場合)
□預貯金・株式等はその預金先・金額・銘柄・株数等のメモ
□保険契約証書・ゴルフ会員証(遺産の中にこれらがある場合)
□証人2人の住民票と住所・氏名・職業・生年月日を記載した書面
□証人2人の認印(証書作成当日持参)
□遺言執行者の住民票
秘密証書遺言
遺言者が遺言書を作成して封印し、2人以上の証人と公証役場へ行って、自分の遺言書であることを証明する遺言。
裁判所の検認手続が必要でありかつ、内容自体は公証されていません。実務ではほとんど行わない遺言です。
2.遺言の長所・短所
自筆証書遺言
1)1人でいつでも簡易にできる | 1)詐欺・強迫の可能性あり 紛失・偽造・変造・隠匿などの危険あり |
2)遺言した事実及び内容を秘密にできる | 2)方式が不備だと無効になる恐れがある |
3)方式は難しくなく費用もかからない | 3)執行にあたっては検認手続を要する |
公正証書遺言
1)公証人が作成するので、内容明確で証拠力高い・安全確実 | 1)必要書類の収集が煩雑 |
2)原本を公証人が保管するので、偽造・変造・隠匿の危険なし | 2)遺言の存在と内容を秘密にできない |
3)字が書けない者でもできる | 3)費用・手数料がかかる |
4)検認手続が不要 | 4)証人2人以上の立会いが必要 |
秘密証書遺言
1)遺言の存在を明確にし、秘密が保てる | 1)公証人が関与するため、手続がやや煩雑 |
2)公証されているので、偽造・変造の危険なし | 2)遺言の内容自体は公証されていないため、紛争の可能性あり |
3)署名・押印できれば、字が書けない者でもできる | 3)証人2人以上の立会いが必要で、執行にあたっては検認手続を要する |
3.遺言の撤回・変更
遺言は遺言者の意思により、いつでも撤回・変更できます。
すべて撤回する場合
遺言書を破棄・焼却する。(自筆証書遺言・秘密証書遺言)
公証役場へ破棄の手続をする。(公正証書遺言)
新しい遺言書を作成する。(日付の新しい遺言書が優先されます)
一部撤回する場合
加除訂正または書き直しをする。(自筆証書遺言)
新たに撤回・変更した部分を記した遺言を作成する。(秘密証書遺言)
公証役場へ訂正を申し出るか、新たに撤回・変更した部分を記した遺言を作成する。 (公正証書遺言)
4.遺留分
遺言を残す際、注意しなければならないのは遺留分です。遺留分とは、一定の範囲の相続人に残さなければならない相続財産の一定割合です。
例えば、夫が愛人に全財産を遺贈するという遺言を残して亡くなったとします。この場合、妻は、相続分の遺留分を侵害されているので、遺留分減殺請求権を行使すれば、遺産の半分は取り戻せます。
つまり、遺言で法定相続分と異なる遺産の指定・分配することを認められているが、その指定・分配が相続人に認められた遺留分を侵害しており、かつ、その侵害された相続人が相続開始があったことあるいは遺留分を侵害されたことを知ってから一年以内に請求した場合に限って侵害された分を取り戻せるのです。
遺留分の対象となる財産の計算方法は相続発生時の財産だけではありません。生前に贈与した一定の財産も遺留分の対象財産に含まれます。
なお、遺留分を計算するときの土地評価額は、相続開始時点での時価(鑑定評価額)が原則となります。相続税上の評価額は関係ありません。
ただし、相続人が兄弟姉妹の場合には遺留分はありません。
配偶者だけ | |||||
配偶者と子供 | |||||
配偶者と兄弟姉妹 | |||||
配偶者と父母 | |||||
子供だけ | |||||
父母だけ | |||||
兄弟姉妹だけ |
※子供および父母が複数の場合は、頭割りされる。
遺留分の放棄
農家や個人事業者などの場合、遺産を後継者1人にある程度集中させる必要があります。しかし、相続が開始する前に相続放棄をさせることはできません。「遺産を等分に分割されては困る、そうならないためにどうしても手を打っておきたい」と考えるならば、生前にある程度贈与などをして、その代わりに遺留分をあらかじめ放棄させて、そのうえで遺言を遺すという方法もあります。
遺留分の放棄には、家庭裁判所への許可が必要です。「遺留分放棄の許可の審判」を請求します。許可が下りれば、遺留分の放棄が成立します。
遺留分の減殺請求
遺留分減殺請求は、特に役所に届け出たり、裁判所に何かを提出するような手続ではなく、遺留分を侵害する遺贈や贈与を受けた相手に対し意思表示をするものです。調停などを申し立てた場合であっても、それとは別に直接相手方に通知書などで請求を行うべきものです。
通常は、内容証明郵便を利用して、後日減殺請求の意思表示をしたことを証拠が残る形で通知書を作成し送付することになります。通常は配達証明付き内容証明郵便によってします。遺留分減殺請求の請求権は、時効が定められていますので、日付が重要です。
遺留分減殺請求権には時効が決まっています。以下の2通りの期間が決められており、その期間を過ぎてしまうと減殺請求ができないことになります。
□相続開始及び遺留分を侵害している遺贈・贈与があることを知ったときから1年
□相続開始から10年(相続開始を知らなくても10年を過ぎたら請求できない)
※当事務所は、遺留分減殺請求の内容証明郵便の作成も承ります。
相続&不動産内容証明郵便作成代行サービス参照
内容証明郵便を出して請求したが、相手が応じない場合には、家庭裁判所に家事調停を申し立てることになります。また、調停も不調に終わったときは、地方裁判所に遺留分に関する訴えを起こして解決することになります。
調停申立の必要書類
□申立書
□申立人の戸籍謄本及び住民票
□相手方の戸籍謄本及び住民票
□被相続人の死亡から出生までのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
□相続人全員の戸籍謄本
□遺産目録
□不動産の登記簿謄本
5.遺 贈
遺贈とは
遺贈とは、法定相続人以外の者へ遺言で財産の分与をすることをいいます。
遺贈には包括遺贈と特定遺贈の2種類あります。
包括遺贈は遺産を一定の割合で包括的に遺贈する事をいい、「財産の全部を誰に」という場合や「遺産の半分を誰に」というように包括的に指定する場合をいいます。
特定遺贈は具体的な財産の遺贈のことで、「特定の土地を誰に遺贈する」といったような場合です。
遺贈は遺贈者からの一方的な意思表示なので、借金がある場合などは一定の手続を経て、遺贈の放棄ができるようになっています。
放棄した場合、放棄された遺贈財産は法定相続人による遺産分割協議の対象財産となってきます。
相続税の負担について
相続税は、被相続人の有する財産(遺産)を取得した人に対して課税される税金です。したがって、その取得原因が相続だけでなく、相続人ではない方が遺言による遺贈で財産を取得された場合もその財産について相続税が課税されます。
つまり、このように相続人ではない方が、遺贈で財産を受けられた場合にも相続人と同じように相続税を納付する必要が出てきます。
ただし、相続人の立場にある方とは若干取扱いが異なる点に注意が必要です。特に異なる点は、相続または遺贈によって財産を取得した方が、被相続人の1親等の血族(代襲相続人を含む)及び配偶者でない場合には、原則として、その方が取得した財産に対応して算出された相続税額に2割を加算した額をもって、納付すべき相続税額とされている点です。
その他、遺言により財産を受けられる方には、不動産取得税、登記費用等(登録免許税)の負担が考えられます。
※相続税については、相続税のページを参照してください。
6.本人の判断能力
遺言をするためには、自分の遺言の内容と効果を判断できる能力が必要です。法律上、満15歳以上ならば単独で遺言する能力があると認められています。
成年被後見人といわれる意思能力が欠ける常況の人々も判断能力が一時回復した時は、遺言することができます。この場合、医師2人以上の立会いが必要です。医師は、遺言時に心神喪失の状況ではなかったと遺言書に付記して証明押印します。
判断能力がなければ、遺言は無効となります。思い立ったらすぐに実行に移しましょう。
※判断能力については、成年後見制度のページを参照してください。