生前贈与での相続対策

生前贈与での相続対策

目次

贈与とは、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思表示をし、相手方がこれを受託することによって成立する契約です。
生前贈与の使い方参照

贈与の内容
定期贈与
定期の給付を目的とする贈与
(例)「毎年100万円ずつ20年間贈与する」など
負担付贈与
財産の贈与を受けた者に一定の給付をなすべき義務を負わせる贈与
(例)「土地を贈与するにあたり、借入金の一部を負担させる」など
死因贈与
財産を贈与する者が死亡して効力が発生する贈与(相続税の課税対象)
(例)「私が死んだらこの土地をあげる」など
通常の贈与
上記以外の贈与(契約後速やかに引渡しが行われる)

 

1.贈与税とは

贈与税は、相続税の補完税といわれています。それは、相続税のかかるはずの財産を生前に贈与して、そのまま相続税がかからないならば、みんな生前贈与を行うでしょう。

だからこそ、相続税逃れを防止するためにも贈与税のほうが相続税よりも税負担が高くなっています。

贈与税=(贈与取得財産の課税価格-基礎控除額)×税率

※基礎控除額 1年間110万円

(贈与をした人ではなく、贈与を受けた人1人につき1年間で110万円です。仮に、2人から各々110万円ずつ合計220万円の贈与を受けたとしても、基礎控除額は110万円として計算します。)

贈与税は、個人から贈与により財産を取得したもの(個人)にかかる税金です。

法人から個人への贈与  贈与税は非課税(所得税が課税される)
個人から法人への贈与  法人税が課税される

◆贈与税計算例

300万円を贈与した場合
(300万円-110万円)×10%(税率)=19万円

1,200万円を贈与した場合
(1,200万円-110万円)×50%(税率)-225万円(控除額)=320万円

2.贈与税の課税財産・非課税財産

(1)贈与税の課税財産

贈与税の課税財産は、本来の財産により取得した財産と、みなし贈与による財産の2種類があります。

1)本来の贈与財産

現金、預貯金、有価証券、土地、家屋、立木、事業(農業)用財産、家庭用財産、貴金属、宝石、書画骨董、電話加入権等の金銭で見積もることができる経済的価値がある一切の財産。

2)みなし贈与財産

法形式上は贈与による取得でなくても、実質的に贈与を受けたと同じ経済効果がある場合には、贈与とみなされて課税されます。

みなし贈与の種類
贈与により取得したとみなされる財産
贈与の時期
信託財産 委託者以外の者を受益者とする信託行為があった場合の信託受益権 信託行為があったとき
生命保険金 満期等の理由により取得した生命保険金等 保険事故が発生した時など
定期金 給付事由の発生により取得した定期金の受給権 定期金給付事由が発生したとき
低額譲受 著しく低い額での譲り受けにより受けた利益 財産を譲り受けたとき
債務免除等 債務の免除、引き受け等により受けた利益 債務の免除があったとき
その他利益の享受 その他の事由により受けた経済的な利益 利益を受けたとき

3)贈与税の非課税財産

非課税財産の種類
非課税の範囲
法人からの贈与により個人が取得した財産 限度なし
扶養義務者から生活費や教育費として贈与を受けた財産 通常必要と認められるもの
公益事業用財産 公益事業に供される部分
特定公益信託から交付を受ける金品 財務大臣の指定するものや奨学金
心身障害者共済制度に基づく給付金の受給権 給付金の受給権の額
公職選挙の候補者が贈与により取得した財産 公職選挙法の規定により報告されたもの
特別障害者扶養信託契約に基づく信託受益権 6,000万円までの部分
社交上必要と認められる香典・祝物・見舞金等 社会通念上相当と認められるもの
相続開始の年に被相続人から贈与を受けた財産 限度なし

注1 法人からの贈与は、贈与税は非課税ですが、所得税(一時所得)が課税されます。

注2 生活費として必要な程度、直接充当する場合は非課税です。
ただし、生活費の贈与を預金・有価証券・不動産の購入資金に充てた場合は課税対象となります。

注3 相続または遺言による遺贈によって財産を受けた者に対する贈与については相続税の対象です。

(2)ケースごとに見た贈与

1)離婚

離婚により相手方から財産をもらった場合、通常、贈与税がかかることはありません。
この場合、贈与を受けたものではなく、慰謝料などの財産分与請求権に基づき給付を受けたものであるからです。

ただし、次の2つに当てはまる場合には贈与税がかかります。

1 分与された財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の価額やその他すべての事情を考慮してもなお、多すぎる場合

この場合は、その多すぎる部分に贈与税がかかることになります。

2 離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合

この場合は、離婚によってもらった財産すべてに贈与税がかかります。

なお、土地や家屋などを分与したときには、分与した人に譲渡所得税の課税が行われることになります。

2)親子

親と子、祖父母と孫など特殊関係のある人の相互間における金銭の貸借は、その貸借が、借入金の返済能力や返済状況などからみて真に金銭の貸借であると認められる場合には、借入金そのものは贈与にはなりません。

しかし、その借入金が無利子などの場合には利子に相当する金額の利益を受けたものとして、その利益相当額は、贈与を受けたものとして取り扱われる場合があります。

なお、実質的に贈与であるにもかかわらず形式上貸借としている場合や「ある時払いの催促なし」又は「出世払い」というような貸借の場合には、借入金そのものが贈与として取り扱われます。

3)共働きの夫婦

共働きの夫婦が住宅を購入するとき、その購入資金を夫婦共同で出す場合があります。そのようなときに、実際の購入資金の負担割合と所有権登記の持分割合が異なっている場合には、贈与税の問題が生ずることがあります。

具体的な事例で説明します。
例えば、総額3,000万円の住宅を購入し、夫が2,000万円、妻が1,000万円の資金負担をしました。しかし、所有権の登記は夫と妻それぞれの持分を2分の1とした場合です。この場合、妻の所有権は登記持分の2分の1ですから、3,000万円の2分の1の1,500万円ですが、購入のための資金は1,000万円しか負担していませんから、差額の500万円は夫から妻へ贈与があったことになります。

この事例の場合、資金の負担割合のとおり所有権登記の割合が夫3分の2、妻3分の1となっていたときは、贈与税の問題は生じません。

3.贈与による相続対策のメリット・デメリット

(1)贈与による相続対策のメリット

1)相続時における資産の絶対量を減らすことができる。人数が多ければなおよい。(相続税額の減少につながる)

例えば、1人に550万円贈与すると84万5千円の税金がかかってしまいますが、妻・子・孫・子の嫁など5人に1人110万円ずつの贈与にすれば、税金はかかりません。

2)孫へ贈与すれば、相続を1回パスすることになる。

子をとばして孫へ贈与すれば、相続税の課税を1回免れることができます。また、相続開始前3年以内に贈与された財産は、相続財産に含めて相続税の計算をすることになっています(生前贈与加算)が、法定相続人ではない孫に贈与したものは相続税の課税対象からはずされます。

3)値上がりが見込まれる財産や毎年収益が発生する財産から

将来値上がりしそうな資産は、優先的に、短期間で贈与する方が有利でしょう。例えば、過去の利益や含み益が多い自社株を贈与する場合は、業績が思わしくないときが狙い目です。

(2)贈与による相続対策のデメリット

1)多額の贈与は累進度合が高いので、相続税より負担が高くなってしまう。

2)基礎控除額を有効に活用するには、数年から数十年かけて行うなどの中期・長期的視野が必要となる。

※計画された連年贈与は一括贈与とみなされるケースもある

一人が1年間に110万円以内の贈与を受けても贈与税はかからないので、単純に親が子供名義の預金に毎年110万円ずつ預け入れて、これで安心と思われている場合が多いようです。

このように毎年贈与を続けていくことを連年贈与といいます。計画的に贈与を行いたいと考えて、贈与開始の時から10年とか15年といった長期の贈与の取り決めをしますと、定期の給付を目的とした「定期金の贈与」とみなされ、一括して贈与税がかかってきますので注意が必要です。この場合、贈与契約は毎年行われなければなりません。

したがって、贈与税の申告が必要ない110万円以下の連年贈与をすんなりと税務署に認めてもらうのは困難なことと心得ておく方が良いでしょう。

連年贈与は不規則に行うことがコツです。1年目70万円、2年目250万円、3年目50万円など・・。少し税額を払って申告をしておくか、もらう側がその事実を認識し、印鑑や通帳を本人が保管しておくことも大切な要件です。

3)遺留分の減殺請求の対象となる。

生前贈与は遺言と同様に遺留分の減殺請求の対象となります。生前贈与は相続開始前1年以内になされたものは無条件に対象になります。またそれ以前に贈与されたものでも贈与する側と受ける側の双方が遺留分を遺留分を侵害していることを知って贈与がされた場合は、対象となります。

※遺留分については、遺言の種類と特徴のページを参照してください。

4.税務上の留意点

(1)受贈者の意思確認の必要性

贈与は贈与者と受贈者の意思が互いに合致する必要があります。よって、贈与者のみの単独で贈与が行われ、受贈者が全くその事実を知らないというケースは法律上贈与が完成したことになりません。

したがって、贈与を実行する場合には贈与者と受贈者の意思を明確に、できるだけ形に残しておくべきです。具体的には、贈与契約書を作成し贈与者・受贈者が自署押印するのが望ましいです。

贈与契約書作成代行サービスを参照ください。

(2)贈与税の申告・納付期限

贈与税の申告は、1年間に基礎控除額110万円を超える価額の贈与を受けた者が行わなければなりません。110万円以下の場合は申告の必要はありません。なお、贈与税の申告は、贈与のあった年の翌年の2月1日から3月15日までの間に、贈与を受けた者の住所地の所轄税務署にて行います。
贈与税の納付期限は、贈与税の申告期限と同じです。

(3)名義変更の実行

預金通帳、預金証書、土地・建物、有価証券などについては、贈与者から受贈者へ名義を書き換える必要があります。

※不動産を贈与するときの必要書類

贈与する(財産をあげる)人
□印鑑証明書(3ヶ月以内のもの)
□登記済証(権利証)
□実印

贈与される(財産をもらう)人
□住民票
□認め印

その他
□登記申請書
□固定資産税評価証明書
□贈与契約書

(4)その他の税金

□印紙税     贈与契約書に必要
□登録免許税   登記の際に発生(固定資産評価額×20/1000)
□不動産取得税  不動産取得後に発生(固定資産評価額×3/100)
□固定資産税   不動産取得後毎年発生(固定資産評価額×1.4/100)
□都市計画税   都市計画法による市街化区域で、不動産取得後毎年発生(固定資産評価額×0.3/100)

5.現金贈与と不動産贈与

具体的に財産の贈与を検討するときには、現金そのものを贈与すべきか、不動産を贈与すべきかの判断をしなくてはなりません。このときにそれぞれの特徴を知っておくことが大切です。

※不動産贈与と現金贈与の違い

不動産贈与
現金贈与
説 明
時価が同じ場合の相続税評価額
低い
高い
不動産の評価は相続税評価額になり、時価評価より安い。
少額贈与
不適
不動産贈与には登記手続な どが必要である。
評価額の引き下げ
可能
不能
更地はアパート建築等により貸家建付地評価になる。
贈与費用
あり
なし
不動産贈与には登記手続な どが必要である。

 

6.贈与税の延納

贈与税の納付は、金銭で一括納付することが原則ですが、一定の条件があれば、その納付が困難とする金額を限度として5年以内の延納が認められ、延納利子税が課されます。なお、相続税と違って物納はありません。

延納の要件

1)納付すべき贈与税額が10万円を超えていること。
2)延納期間は5年以内であること。
3)担保があること。(延納税額が50万円未満、かつ延納期間が3年以下の場合は不要)