任意後見制度は、2000年4月に新たに制定された成年後見制度のもとに新たに創設された制度です。
任意後見契約とは、本人が任意後見人に対し、精神障害(認知症、知的障害、精神障害等)により判断能力が不十分な状態における自己の生活(見守り等の身上監護)、療養監護、財産の管理に関する事務の全部または一部について代理権を与える委任契約です。
任意後見監督人が選任されたときから契約の効力が生ずる特約をしたものです。
任意後見契約の方式は、適法かつ有効な契約が締結することを担保するため、公正証書によることが必要です。
1.任意後見人の選任
任意後見人の資格に関して、法律上制限がありません。したがって、本人の親族のほか、弁護士・司法書士・行政書士・ファイナンシャルプランナー・社会福祉士なども任意後見人になることができます。
また、法人を任意後見人とすることもできます。社会福祉協議会・福祉関係の公益法人・社会福祉法人や営利企業も可能です。
複数の任意後見人を選任することも可能です。
本人の選択に委ねられますが、任意後見監督人選任の審判の際に、不正な行為や不適任な事由がなければ問題ありません。
2.任意後見契約の作成手続
任意後見契約の方式は、公正証書によることが必要です。事前に公証役場で打ち合わせを行う必要があります。そして、契約当日に、本人と任意後見受任者の立会いのもと、任意後見契約の公正証書が作成されます。
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※公証役場への添付書類
本 人
□戸籍謄本
□住民票
□実印
□印鑑登録証明書
任意後見受任者
□住民票
□実印
□印鑑登録証明書
その他
□公証人費用(基本手数料)11,000円 (登記嘱託手数料)1,400円
□法務局印紙代 2,600円
□(登記嘱託手数料) 1,400円
(概算6万円:契約書20枚超のため)委任契約・死後事務委任契約も含む
3.任意後見監督人選任の申立とは
任意後見契約をした本人が、判断能力が低下したときは、任意後見契約をスタートさせるために、家庭裁判所に対して、「任意後見監督人選任の申立」を行う必要があります。
この申立は、本人でもできますし、その他、配偶者・4親等内の親族・任意後見受任者も申立を行うことができます。
家庭裁判所は、この申立を認めるときは、任意後見監督人を選任し、任意後見契約を発生させることになります。
任意後見監督人の選任は、自己決定の尊重の観点から、本人の申立または同意が必要です。任意後見監督人の選任の審判が下ると任意後見契約がスタートし、任意後見人は本人から委託された事務につき、代理権を行使することができます。
ちなみに、任意後見監督人選任の申立から、選任されるまでの間は、「財産管理の委任契約」が締結されていれば、この委任契約で本人をサポートします。任意後見監督人が選任されると「財産管理の委任契約」は、終了となります。
4.任意後見人の事務
任意後見人の事務は、個別的具体的必要性に基づいて本人が契約で定めるものですが、代理権付与の対象となる事務である以上、契約等の法律行為に限られ、介護サービスなどの事実行為は含まれません。
具体的には、預貯金の振り込み・払い戻しの請求、不動産の管理、介護契約の締結と要介護認定の申請、訴訟委任などが考えられます。
5.任意後見監督人の事務
任意後見監督人は、任意後見人を監督し、その事務に関し家庭裁判所に定期的に報告し、家庭裁判所は必要があると認めるときは、任意後見監督人に対し、報告を求め、調査を命ずるなど必要な処分を命ずることができます。任意後見人に不正な行為などその任務に適しない事由があるときは、任意後見人を解任することができます。
居住用不動産の処分に関しては家庭裁判所の許可は不要です。
なお、任意後見監督人の資格は法律上制限がありません。個人、法人いずれも可能です。ただし、任意後見人(任意後見受任者)の配偶者や、直系血族および兄弟姉妹は任意後見監督人になることはできません。
個人としては、行政書士・司法書士・弁護士などの法律実務家のほか、社会福祉士など福祉の専門家などが選任されています。
法人では、社会福祉協議会・福祉関係の公益法人・社会福祉法人等が就任するケースが多いです。
いずれにせよ、任意後見監督人の選任は、個々の案件ごとに個別的に審査されます。
5.任意後見契約の登記
任意後見の登記は、法定後見と同じく嘱託または申請により、後見登記等ファイルに記録されることになっています。この登記の嘱託は、公証人または家庭裁判所の裁判所書記官が登記を行います。
登記事項は、公正証書を作成した公証人の氏名等、任意後見契約の本人の氏名等、任意後見人の氏名等、代理権の範囲、任意後見監督人が選任されたときは、その氏名等、契約の終了、保全処分などです。
任意後見の登記がされた後に本人の住所が変更となったり、婚姻等で氏が変わったときは、変更が生じた場合などは、変更の登記申請を行います。
ただし、裁判所書記官の嘱託で変更される場合は、登記申請を行う必要はありません。
6.任意後見契約の終了
1)契約を解除したとき
★任意後見監督人の選任前の場合
任意後見契約の当事者が公証人の面前で任意後見契約を解除する旨の書面に署名捺印し、公証人が認証します。任意後見契約の終了の登記を申請します。
★任意後見監督人の選任後の場合
本人の保護を図るため、正当な事由と家庭裁判所の許可が必要です。任意後見人の代理権の消滅は任意後見契約の終了の登記をしなければ善意の第三者には対抗できません。
2)任意後見人を解任したとき
3)法定後見を開始したとき
4)本人または任意後見人の死亡や破産したとき
任意後見は法定後見に優先します。法定後見への移行は可能です。法定後見の開始の審判が開始されたときは、任意後見契約は終了することとされています。